ミュージックベルは、ハンドベル(イギリスでキリスト教会のチャーチベルの練習をするために作られた楽器)を祖として生まれ、「1つのベル」につき「1つの音程」という、個々に独立した音程を持ったベルを、1つ1つ奏でながら曲を演奏します。1つの旋律を奏でるにしても何本ものベルを使いますから、他の楽器とは大きく異なる構造を持った楽器、と言う事ができます。(ためしにピアノを思い出してみると、ピアノが1台あって片手だけを使っても、1人で幾つもの旋律や和音を奏することができますね)
ならば、ミュージックベルの魅力って何でしょう?響きの美しさ?もちろんそれも忘れてはいけない最大の魅力の1つです。しかし、1つ1つのベルを奏でて曲を演奏していく、まさにその中にこそミュージックベルの最大の魅力が潜んでいるのです。
2人で1つの美しい旋律を一緒に奏でることも、何人かの人数で合奏を楽しむことも、はたまた大人数でまるで合唱のように音楽を作り上げることもできてしまう。1つの曲を何本ものベルで、皆で音楽を作り分かち合う素晴らしさが、そこにはあります。
私がミュージックベルの指導を通じて出会ってきた多くの方達は、はじめは全く楽譜が読めず、「ベルに興味があっても演奏する事はできないのではないか」、「皆で演奏しても自分が足を引っ張ってしまうのではないか」、という不安や疑問を持っている方が数多くいらっしゃいました。ですが、はじめは間違い戸惑いながらも、耳を使ったり合図を送り合いながら皆で旋律を作り上げ、共にリズムを感じながら曲を作り上げていく過程で、読めない譜面も必ず読めるようになり、演奏を楽しめるようになっていきます。1本ずつに独立したベルが、個々の響きと音程に分かれているからこそ、この可能性が生まれると言えるでしょう。
もちろん1人で演奏することも充分にできます。まるで洗練されたピアニストがピアノを弾くかのように、またはヴァイオリンの音色が持つ表情の豊かさに決して負けないくらいに強く、演奏を高めていく事もできます。
この曲集では、より幅広い年齢層の方たちに親しんでいただけるよう、様々なジャンル、年代から曲を選びました。また、楽器の経験者の方も、楽譜を初めて読まれる方にも分かりやすく、より演奏が身近に感じていただけるように心がけました。
この曲集のタイトルである「Lontano」は、イタリア語で「遠くから」を意味しています。これは、先日惜しくも亡くなられたばかりである現代音楽の作曲家、ジェルジ・リゲティ氏の素晴らしい同名の管弦楽曲から、このタイトルにすることを、ふと思いつきました。
まるで何処か遠く向こうから音が浮かび上がり、また遠くへと音が響き、飛んでいく。
遠くにある、まだ響きになっていないものの中から、奏者である皆さんが音を掴みとり、また次の音へ響きが遠く遠くまで届くように、音を紡いでいってほしい。そんな願いを、この美しい言葉に託しました。
この曲集を通して生まれるミュージックベルの響きを、皆さんもより多くの方の心に届けてください。
皆さんはもうミュージックベルの奏者なのですから。
この曲集の出版にあたり、本書のために素晴らしい表紙デザインをしてくださったコシノジュンコさんと、それぞれの人間味が溢れる素敵なメッーセージを贈って下さった、小六禮次郎さん、倍賞千恵子さん、山田邦子さん、吉武輝子さん、マイク眞木さんの各氏に、心からの御礼を申し上げます。また、最後まで多大なご助力をして下さった、全音楽譜出版社の瀧沢誠さん、中山塁さんに、誌上を借りて感謝を申し上げます。
上野 陽子
|